国際化が進む現代、旅行や仕事などで海外に滞在する日本人は増え続けています。そんな中、もし海外で突然、大切な家族が亡くなってしまったら――。
その時、故人を安全かつ丁寧に家族のもとへ送り届ける「縁の下の力持ち」がいます。それが「国際霊柩送還士」です。
この記事では、あまり知られていないこの専門職の役割や仕事の流れ、求められるスキルについて詳しくご紹介します。
国際霊柩送還士とは?
国際霊柩送還士(こくさいれいきゅうそうかんし)は、国外で亡くなった方のご遺体を、国境を越えて遺族のもとへ搬送する専門職です。
日本人が海外で亡くなった場合、日本に遺体を戻すには、現地の法律・通関手続き・防腐処置など、さまざまな対応が必要です。それらすべてを代行し、丁寧に進めるのがこの職業の役割です。
これは単なる運送業務ではなく、「命の尊厳」と「ご遺族の想い」を大切にする、人と人をつなぐ大切な橋渡しなのです。
遺体搬送の流れとは?
国際霊柩送還士の仕事は、ご遺族からの第一報を受け取るところから始まります。
まずは現地大使館、警察、病院などと連携し、死亡診断書や必要書類を整えます。国によって法制度は異なり、通関や検疫の条件もさまざま。英語や現地語の文書対応、各種翻訳、公証など、煩雑な事務手続きをスムーズに進める能力が求められます。
次に行うのが、遺体の処置。遺体が長距離を移動する場合、腐敗を防ぐ「エンバーミング(防腐処置)」が必要です。ご遺族にとっては、故人の“元気だった頃の姿”を少しでも再現できるよう、死化粧や衣服の選定など、細やかな配慮が求められます。
その後、航空会社との連絡・フライト手配を行い、遺体を棺に納めて空輸。日本に到着したら、通関や空港での手続きを経て、専門車両でご遺族のもとへ届けます。
求められるスキルと適性
この職業に特別な国家資格はありませんが、次のようなスキルや資質が重要です。
- 英語などの外国語力(書類作成・現地対応に必須)
- 法律・行政手続きへの理解
- 心理的な安定性と共感力
- 細やかな配慮と清潔な所作
- 自動車運転免許(搬送時)
また、専門的なエンバーミングの資格や、グリーフケア(遺族ケア)の知識があると、より丁寧な対応が可能になります。
ドラマ『エンジェルフライト』で注目を集めた職業
Amazon Prime Videoで配信されたドラマ『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』では、この職業に焦点が当てられ、大きな話題となりました。
現実に存在する企業「エアハース・インターナショナル」をモデルに、国境を越えて故人と家族の“最後のお別れ”を実現する姿が描かれ、多くの共感と感動を呼びました。
このドラマがきっかけで、「自分も人のために何かできる仕事がしたい」と感じた方も少なくないようです。
まとめ:静かに心を支える、かけがえのない仕事
国際霊柩送還士は、あまり表に出ることのない職業ですが、ご遺族の悲しみと向き合いながら、人生の最終章を丁寧に支える重要な存在です。
国際社会の一員として、そして一人の人間として、亡くなった方の尊厳と、ご遺族の想いをつなぐ――。
この静かで力強い使命を担う仕事が、今後ますます注目されることを願ってやみません。
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